構造設計一級建築士とは?建築士との違いを解説

構造設計一級建築士とは?建築士との違いを解説

建築物の安全性を確保するために不可欠な役割を果たす「構造設計一級建築士」。
一般的な建築士とは異なる専門性を持ち、特に高度な構造設計を担当することができる特別な資格です。
近年の大規模建築物の増加や耐震基準の厳格化に伴い、構造設計一級建築士の果たす役割の重要性はますます高まっています。

この記事では、構造設計一級建築士とは何かから他の建築士資格との違い、具体的な業務内容、そして資格取得までの道のりまで、幅広く解説します。
建築業界でのキャリアアップを考えている方や、建築物の構造設計に興味がある方は参考にしてみてください。

目次

構造設計一級建築士とは

構造設計一級建築士は、建築界において最も高度な構造設計の専門家として位置づけられる資格です。
この章では、構造設計一級建築士の基本的な定義から、その役割と責任、さらに資格取得の要件について詳しく解説します。
建築物の安全性を担保するこの重要な資格について理解を深めていきましょう。

構造設計一級建築士の定義

構造設計一級建築士とは、建築士法に基づいて2008年11月に新設された専門的な資格です。
一般の一級建築士よりも高度な構造設計の知識と技術を有すると認められた専門家であり、特定の規模・用途の建築物における構造設計を行う際に必要とされます。
この資格は、建築物の安全性確保という社会的要請に応えるために誕生しました。

構造設計一級建築士は単なる資格称号ではなく、法的に定められた業務独占資格です。
つまり、一定規模以上の建築物の構造設計については、この資格を持つ専門家のみが行うことができるという特別な位置づけを持っています。
建築物の構造安全性という、人命に直結する重要な分野を担う資格として、高い社会的信頼を得ています。

構造設計一級建築士の役割と責任

構造設計一級建築士の最も重要な役割は、建築物の構造安全性を確保することです。
地震や台風などの自然災害に対して建物が十分な耐力を持ち、人命を守れるような構造設計を行う責任を担っています
具体的には、建築物の構造計算や構造図の作成、構造上の重要な判断を行います。

法的には、構造設計一級建築士は特定の建築物の構造設計図書に「構造設計一級建築士である旨の表示」と「署名及び押印」を行うことが義務付けられています。
この行為は単なる形式ではなく、その建築物の構造設計が適切であることを専門家として証明する重大な責任を伴います。
万が一、設計上の瑕疵があり事故が発生した場合は、法的責任を問われる可能性もあります。

また、他の建築士が行った構造設計の法適合性をチェックする「構造設計適合性判定」の役割も担います。
これは、もう一人の構造の専門家が設計内容を審査するダブルチェック制度であり、建築物の構造安全性をより確実なものとするために重要な役割です。
このように、構造設計一級建築士は設計者としての責任だけでなく、審査者としての役割も果たしています。

資格取得の要件と手続き

構造設計一級建築士になるためには、まず一級建築士の資格を取得していることが前提条件となります。
さらに、一級建築士として構造設計に関する実務経験が5年以上あることが必要です
この実務経験は、建築物の構造設計に関わる業務に従事した期間を指します。

資格取得の具体的な流れとしては、まず国土交通大臣の登録を受けた講習実施機関が行う講習を受講し、修了考査に合格する必要があります。
この講習は構造設計に関する高度な知識と技術を習得・確認するためのもので、通常4日間程度にわたって行われます。
講習では、構造力学や耐震設計、各種構造の専門知識などが扱われます。

修了考査に合格した後は、国土交通大臣に構造設計一級建築士証の交付を申請します。
審査の結果、要件を満たしていると認められれば、晴れて構造設計一級建築士の資格が付与されます。
この資格証は5年ごとに更新が必要で、更新時には所定の講習を受講することが求められます。

構造設計一級建築士と他の建築士資格の違い

建築業界には複数の建築士資格が存在し、それぞれ異なる役割や権限を持っています。
ここでは、構造設計一級建築士と他の建築士資格との違いを明確にし、それぞれの位置づけを解説します。

一級建築士との違い

一級建築士は建築関連の資格としては最も一般的で基本的な資格であり、延べ面積や用途、階数に関わらず、あらゆる建築物の設計・工事監理を行うことができます。
一方、構造設計一級建築士は一級建築士の上位資格とも言える専門資格であり、特定の規模以上の建築物における構造設計を行う権限を持ちます
つまり、構造設計に関しては、構造設計一級建築士の方がより専門性の高い資格といえます。

具体的な業務範囲の違いとしては、高さ20mを超える建築物や、特定用途で一定規模以上の建築物の構造設計については、一級建築士だけでは行えず、構造設計一級建築士の関与が必要となります。
これは、高度な構造設計が必要な建築物については、より専門的な知識を持つ技術者が責任を持つべきという考え方に基づいています。
この点が、両資格の最も大きな違いと言えるでしょう。

取得難易度については、構造設計一級建築士の方が明らかに高いといえます。
一級建築士になるためには、指定の学歴と実務経験を経た後に国家試験に合格する必要がありますが、構造設計一級建築士はさらに一級建築士取得後の構造設計の実務経験5年以上と、専門的な講習・考査合格が求められます。
このように、構造設計一級建築士は一級建築士のスキルセットをベースに、さらに専門的な構造設計のスキルを上乗せした資格となっています。

設備設計一級建築士との違い

設備設計一級建築士は、構造設計一級建築士と同じ2008年の法改正で新設された専門資格です。
両者はともに一級建築士の上位資格という位置づけですが、専門とする分野が大きく異なります
構造設計一級建築士が建築物の構造安全性に関わる専門家であるのに対し、設備設計一級建築士は建築設備の専門家です。

設備設計一級建築士は、空調、給排水、電気などの建築設備の設計を専門としており、一定規模以上の建築物の設備設計には、この資格を持つ専門家の関与が必要となります。
つまり、構造設計一級建築士が建物の「骨格」を担当するのに対し、設備設計一級建築士は建物の「血管や神経」にあたる部分を担当すると言えるでしょう。
両者は建築物の異なる側面を専門とする、相互補完的な資格です。

取得要件の面では、両資格とも一級建築士であることを前提とし、それぞれの分野で5年以上の実務経験が必要です。
また、専門的な講習を受講し、修了考査に合格することも共通しています。
しかし、講習内容や考査の内容は当然ながら大きく異なり、それぞれの専門分野に特化した高度な知識が問われます。

構造設計一級建築士の業務と活躍分野

構造設計一級建築士は、建築業界の中でも特に専門性の高い業務に従事します。
この章では、具体的にどのような業務を行い、どんな場所で活躍し、今後どのような将来性があるのかを詳しく解説します。

構造設計一級建築士の具体的な業務内容

構造設計一級建築士の主要な業務は、建築物の構造設計です。
具体的には、建築物が安全に自重や積載荷重、風圧や地震などの外力に耐えられるように、構造体の形状や部材の寸法、配置などを決定します

業務の流れとしては、まず建築主や意匠設計者から提示された要求条件(用途、規模、形状など)をもとに、最適な構造形式(RC造、S造、木造など)を提案します。
次に、構造計算を行って各部材のサイズや配置を決定し、それを図面化します。
この過程では、コンピュータによる構造解析プログラムを活用することが一般的です。

また、先述の通り、他の一級建築士が行った構造設計に対する適合性判定業務も重要な役割です。
これは、構造設計が法令に適合しているかを確認するダブルチェックの仕組みで、建築物の安全性確保に大きく貢献しています。
さらに、既存建築物の耐震診断や耐震改修設計なども、構造設計一級建築士の重要な業務です。

活躍できる職場と待遇

構造設計一級建築士が活躍できる主な職場としては、設計事務所、ゼネコン(総合建設会社)、構造設計専門事務所、官公庁などが挙げられます。
特に大規模プロジェクトを手がける組織では、構造設計一級建築士の専門性が高く評価され、重要な役割を担うことになります
また、独立して構造設計事務所を開業する道もあります。

待遇面では、構造設計一級建築士の資格を持つことで、一般の一級建築士よりも高い報酬を得られることが多いでしょう。
特に、経験を積んだベテランの構造設計一級建築士は、その専門性の高さから市場価値が高く、年収1,000万円を超えるケースも珍しくありません。
独立開業の場合は、より高い収入を得る可能性もありますが、仕事の受注状況によって変動します。

構造設計一級建築士の需要は、特に都市部や大規模な建設プロジェクトが多い地域で高まっています。
ただし、地方においても、一定規模以上の建築物には構造設計一級建築士の関与が法的に必要となるため、全国的に需要があると言えます。
職場環境としては、デスクワークが中心で、CADや構造解析ソフトを活用した設計作業が主となります。

構造設計一級建築士の将来性

構造設計一級建築士は非常に将来性のある職業ということができます。
というのも、日本は地震大国であり、建築物の耐震性能に対する社会的要求は今後も高まり続けると予想されるからです。
また、既存建築物の老朽化に伴う耐震診断・改修の需要も増加傾向にあります。

技術面では、コンピュータによる構造解析技術の進化や、新しい構造材料・工法の開発により、構造設計の可能性が広がっています。
これに伴い、より高度な専門知識を持つ構造設計一級建築士の価値は高まると考えられます。
また、専門性の高さから代替が難しく、AIやロボット化の影響を受けにくい職種であることも、将来性を支える要因となっています。

構造設計一級建築士を目指す方法

構造設計一級建築士という高度な専門資格を取得するためには、適切な計画と準備が必要です。
この章では、資格取得までの具体的なステップや効果的な勉強法、試験の難易度などについて詳しく解説します。

資格取得のためのステップ

構造設計一級建築士になるための第一歩は、まず一級建築士の資格を取得することです。
一級建築士になるには、指定の学歴と実務経験を経た後、国家試験に合格する必要があります。
大学の建築学科を卒業した場合は2年以上、高専や専門学校卒の場合は4年以上、その他の場合は7年以上の実務経験が求められます。

一級建築士の資格を取得した後は、構造設計に関する実務経験を積む必要があります。
法令では5年以上の実務経験が必要ですが、実質的にはより長期間の経験を積むことで、構造設計の専門知識を深めることが重要です。
この期間中に、様々な構造形式や規模の建築物の設計に携わることで、幅広い経験を得ることができます。

必要な実務経験を積んだ後は、国土交通大臣の登録を受けた講習実施機関(一般社団法人 日本建築士会連合会など)が行う講習を受講します。
講習は通常4日間程度で、構造関連の法令や技術的基準、構造計算などについて学びます。
講習の最終日に行われる修了考査に合格すれば、構造設計一級建築士証の交付を申請する資格を得ることができます。

効果的な勉強法とおすすめ参考書

構造設計一級建築士の講習・考査に向けた勉強では、構造力学の基礎から応用まで幅広く復習することが重要です。
特に、実務で使用頻度の高い構造計算手法や法令上の構造基準などは重点的に学習すべきでしょう
日頃から最新の技術基準や法令改正にも注意を払うことも大切です。

効果的な勉強法としては、過去の講習テキストや考査問題を入手して学習することが挙げられます。
また、構造設計の実務経験者や構造設計一級建築士の資格を持つ先輩からアドバイスを受けることも有効です。
さらに、建築学会や建築士会などが開催する構造関連のセミナーや研修会に参加することで、最新の知識を得ることができます。

おすすめの参考書としては、以下のようなものがあります。

  • 「構造設計一級建築士読本」(日本建築士会連合会編)
  • 「建築構造設計指針」(日本建築学会編)
  • 「構造計算入門」シリーズ(各出版社)
  • 「建築物の構造関係技術基準解説書」(国土交通省住宅局建築指導課編)
  • 「構造設計一級建築士講習テキスト」(各講習実施機関発行)

これらの書籍に加えて、オンラインの学習コンテンツや専門の予備校なども活用することで、より効率的に学習を進めることができます。
ただし、日々の実務を通じて構造設計の知識と経験を着実に積み重ねていくことこそが何よりも重要です。

試験の難易度と合格率

構造設計一級建築士の修了考査は、一般的に難易度が高いとされています。
特に、実務で直面する複雑な構造問題や、最新の技術基準に関する知識が問われるため、十分な準備が必要です
考査の内容は、構造計算、構造設計の実務、関連法規などの分野から出題されます。

合格率については、年によって変動がありますが、おおむね15~30%程度と言われています。
これは一級建築士試験の合格率(約15〜25%)と比較すると決して低いようには見えませんが、受験者が既に一級建築士資格を持ち、さらに構造設計の実務経験5年以上という条件を満たした専門家であることを考慮すると、かなり難しい試験であるということがわかるでしょう。

合格のためのポイントとしては、単に知識を暗記するだけでなく、実務で培った経験を活かして実践的な問題解決能力を身につけることが重要です。
また、最新の法令改正や技術基準の変更にも注意を払い、常に最新の知識をアップデートしておくことも大切です。
講習中は積極的に質問し、不明点をその場で解消することも合格への近道と言えるでしょう。

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まとめ

この記事では、構造設計一級建築士の定義から業務内容、他の建築士資格との違い、そして資格取得の方法まで、幅広く解説してきました。
構造設計一級建築士は、建築物の安全性を確保するために欠かせない専門家であり、一級建築士よりさらに高度な知識と技術を持つ資格であることが理解いただけたかと思います。

特に重要なポイントとして、構造設計一級建築士は一定規模以上の建築物の構造設計において法的に必要とされる資格であり、単なる称号ではなく業務独占資格であるということがあります。
また、資格取得には一級建築士としての資格取得後、さらに5年以上の構造設計の実務経験と専門的な講習・考査合格が必要です。
この高いハードルが、構造設計一級建築士の専門性と社会的信頼を支えています。

今後も、地震大国日本における建築物の安全性確保や、老朽化建築物の耐震診断・改修などの需要増加に伴い、構造設計一級建築士の重要性はさらに高まることが予想されます。
建築業界でのキャリアアップを考えている方や、建築物の安全に関心がある方は、この資格について知識を深め、将来的な取得を検討してみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

アイピアジョブ 編集部

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